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La personne en fin de vie

30 Aug 2023

エルピオでんきのホームページは大丈夫なのか

「エルピオでんき」という小売事業者がある。関東に所在するプロパンガス会社が立ち上げた新電力だ。
2022 年の記録的な電気代高騰により事業撤退するまでは、事実それなりに安いということ、アフィリエイトでキックバックもあり多くのウェブサイトで猛プッシュを受けた小売事業者だ。
しかしながらエルピオでんきは 2022 年、大幅な電力仕入れ価格の上昇により事業撤退に追い込まれた。

そんな会社がひっそりと(懲りずに?)2023 年 6 月より新電力事業に参入したかと思ったら、結構面白いウェブサイトを立ち上げていたので、備忘的にメモする。
ことわっておくが、批判的な意図は無いのであしからず。

エルピオでんきの料金体系

エルピオでんきは東京電力、中部電力、関西電力の各管内で電力小売事業を営んでおり、それぞれにつき、市場連動で従量単価が変動するプランと、そうではないプランを提供している。
私が中部地方居住で中部電力の料金体系に馴染みがあるため、下記の記述はすべて「中部フリープラン S」(市場連動でないプラン)について見ていきたい。

エルピオでんきの中部フリープラン S の料金体系は次の通り、HP で紹介されている(Web 魚拓)。

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基本料金が 0 円で、従量単価が一定となる、Looop でんきや楽天でんきなど他社でも採用されている料金体系だ。
ここでは中部電力の料金単価は掲載せず、あえて「新電力 A 社」「新電力 B 社」なる会社との電気代を比較しているようだ。

ここで比較対象となる新電力会社はどこだろう?
新電力 B 社はおそらく「楽天でんき」(従量単価 41.40 円/kWh)だとすぐに目星がついたが、新電力 A 社についてはついぞ分からなかった。
まあそれはいい。その上に記載のあるように年間「29,700 円も節約」になるのであれば、たしかにエルピオでんきに切り替えない道理はない。しかし、これが何と比較しての差額なのか一切の記載がない。
一般的な新電力の場合は、多くの人にとって馴染みのある中部電力の従量電灯 B と比較した差額を掲載していることが多いため、エルピオでんきもそうかと思ってしまうが、少なくともそういった記述は一切ない。
比較対象が分からなければ、その数字はなんの意味も持たない。

更に問題なのは、次の点である。

切り分けされた「需給管理費」はシミュレーションに含まなくてもよいのか

電気代を構成する要素は一般的に「① 基本料金」+「② 従量料金 x 使用電力量」+「③ 燃料費調整額」+「④ 再エネ賦課金」である。
最近は ③ 燃料費調整額について、独自燃調(電源調達調整費等)というものを代わりに導入している新電力も多いが、基本的には上記4つが構成要素である。
(基本的に、というのは、2023 年 8 月までは経産省の激変緩和事業による割引が上記に付加されているためである。)

ところが、エルピオでんきの場合、次のように注記がついている。

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「エルピオでんきの料金の計算は、基本料金と従量料金の合計であり、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金、当社が定める需給管理費 (5.5 円 /kWh)は含んでおりません。」

他社でまったく導入事例のない「需給管理費」を徴収するのであれば、それを料金の計算に含めなければ、試算の意味がないのでは…?というか、シレっと新概念を注釈で出すなよ。
ググっても「需給管理費」徴収してるのはエルピオさんだけと思われる。

1kWh あたり 5.5 円だと対して影響のないように感じてしまうが、エルピオがうたう年間「29,700 円のお得」の試算根拠となる月間使用量 450kWh に当てはめると、需給管理費で丁度年間 29,700 円支払う羽目になる。
すなわち、エルピオでんきは「29,700 円他社(どこ?)より安い」と触れ込んではいるものの、その算定には他社で算入されていない謎の管理費用を計算外に押し出し、無理やり安くなるように見せかけているのである。
これがまかり通るなら、何をやっても許されるよね。

なお、エルピオでんきは中部電力等に比べて基本料金が無いという特徴があるが、一方で従量料金が 1 段階目(~120kWh)で 68%、3 段階目 (300kWh~) でも 24.8%高い。
需給管理費とやらを合わせると、その差額は 1 段階目で 94%、3 段階目でも 44%にも登るのである。
すなわち、たとえ基本料金分 1485 円がチャラになったとしても、電気を月間 74kWh 使った時点で、従量料金で中部電力より 1485 円従量料金が高くなる。
基本料金でのお得額も従量料金で相殺してしまい、結果的にエルピオのほうが高くつくのである。
目先の基本料金ゼロ円に惑わされると、痛い目を見ることになろう。

実際にシミュレーションしてみた

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各社ホームページに記載の料金設定および、2023 年 6 月の燃料費調整額、市場価格調整額(楽天)をもとに、エルピオの試算条件である 50A 契約・平均月間使用 450kWh の条件下で単月料金を試算。
比較プランは、中部電力(従量電灯 B)、エルピオでんき(中部フリープラン S)、楽天でんきプラン S(アンペア契約)である。

単月料金が、中部電力:12,893 円、エルピオでんき:19,530 円、楽天でんき:16,110 円。
年間料金(12 掛け)が、中部電力:154,717 円、エルピオでんき:234,360 円、楽天でんき:193,320 円という結果となった。
中部電力従量電灯 B に対する差額は、エルピオでんきが 79,643 円の費用増、楽天でんきが 38,603 円の費用増である。

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エルピオでんきにもシミュレーションサイトがあった。(電気のランディングページ内にリンクは見当たらず、Google 検索によってアクセスできた) 1 月の使用量 450kWh、50A、中部電力従量電灯 B の試算結果がこれである。
金額が私のシミュレーションと比較して小さいのは、1 月 450kWh の実績値に基づき 2 月~ 12 月の電力量をシミュレートしているからだろう。
(私は 450kWh×12 ヶ月の単純計算しているだけ)

自分のサイトで答え合わせしてるじゃん、エルピオでんきに切り替えると年間 25,150 円損じゃん。

駆け込みで焦って申し込む前に考えたほうがいいかも

lpio

冒頭述べたようにエルピオでんきは一度事業撤退した会社だが、「受け入れ世帯数の上限を設けることで、継続的で持続可能な電力供給が」可能になったらしい。
上限に達し次第受付は締め切るので、お申し込みはお早めに!とのこと。

別業種だが、侍エンジニア塾というプログラミングスクールが以前有利誤認で炎上していたのを思い出した。
実際に受付をタームで区切っているかどうかは、侍エンジニア塾とは異なり外部から識別できないためノーコメントだが、どちらにせよ受付締め切り前に焦って考えずに申し込んだ人が需給管理費の名のもとに損するパターンな気がする。

というか、一度事業撤退しておいて、燃料市況が落ち着いたら再参入というのは商業モラル的にどうなんだ?
今まで電力事業が旧一電による寡占だったのは、寡占と引き換えに安定供給義務が課せられていたからでしょ?
採算が合わないからと一度事業撤退した会社が節操なく再参入するのは、電力自由化の本来の目的からも逸脱しているように思えるのだが、事業撤退した会社に対する再参入の期間的ペナルティなどは無くても良かったのだろうか。
ホープエナジーの計画倒産についてもインバランス不払いで送配電会社の丸損となり、ホープは今ものうのうと上場維持しているわけだし、新電力会社のモラルのなさにモヤモヤとする。

エルピオは老舗の LP 屋で長くインフラに携わってきた会社なんだから、それくらいは分かってそうだが。というか、分かっていてほしいものだが。